1.       在留資格に携わる者であれば、入国管理法における法務大臣の広範な裁量権を認めたマクリーン判決を知っていると思いますが、マクリーンが勝訴した東京地裁の判決文を読んだ人は少ないのではないでしょうか。いま、改めて読み返してみると、東京地裁判決の方が法の正義に適っており、デモに参加しただけで「政治活動」であると騒ぎ立て基本的人権を無視した入管側に軍配を上げた最高裁の腰抜けぶりが際立った事件だったように感じます。特に最近、トランプ政権になり、米国の司法が、行政の行き過ぎをリアルに牽制している姿を見せ付けられると、そのたびに彼我の違いを思い知らされます。

2.       この事件において、当初入管は、「マクリーンが当初予定していた勤務先に17日間しか勤務せずに転職したことが不許可事由に当たる」という「転職不許可説」を主張していました。じつは、この「転職不許可説」に関しては入管のボロ負け。入管を勝たせた控訴審ですら、「勤務を変更したことのみをもって不許可の理由としたものとすればいささか問題であろう」と断じています。このように、あまりにも自分勝手な考えを根拠なく入管が押し付けてきた場合には、日本の司法も機能してくれるのかもしれませんが、時代は遷り、日本国内で働く外国人は100万人を超え、仙台市並みの人口になりました。マクリーン事件当時とはかなり事情が変わってきています。

3.       マクリーン事件が公になる10年ほど前、日韓国交正常化交渉で法務省入国管理局参事官として日本側代表補佐を努めた法務官僚は、『法的地位200の質問』(京文社1965年)という書物を著し、「(外国人の処遇は)日本政府の全くの自由裁量に属することで、国際法上の原則から言うと『煮て食おうと焼いて食おうと自由』なのである」と書いたそうですが、マクリーン事件から40年が経過した現在、現場の入国審査官たちは、在留外国人のことを、どのような対象として捉えて、日々の業務に向き合っているのでしょうか。

4.       マクリーン事件当時(19727月)、ハワイ出身の高見山が外国出身力士による史上初の幕内優勝を果たし、関脇にまで昇進しました。子供たちから愛され大人気の高見山でしたが、横綱どころか大関にもなれなかった――そういう時代でした。しかし、40年が経過した現在、当時、入管よりも鎖国主義であった相撲界は外国人に門戸を開いて、モンゴル勢が横綱を寡占するようになりました。日本の国技である大相撲の横綱を白鵬が務めていることを、財界に例えてみれば、日産・三菱自動車の会長を務めるカルロス・ゴーンが、日本経団連会長を担っているようなものです。逸ノ城など若手外国人力士の人気も高く、外国人力士なしには、興業が成り立たなくなっています。

5.       スポーツ界では、元メジャーリーガーのマニー・ラミレスが、セリーグやパリーグではなく、「高知ファイティングドッグス」という四国の球団に入団したり、Jリーグが従来の「外国人枠」に加えて、「アジア枠」という形式で外国人の活躍の場を拡げるなど、外国人の制限を緩和し、国境を越えた人材交流を活発化させています。このような時世の中で、現場の入国審査官たちが、外国人の受入れについて、前向きに感じる部分はないのでしょうか。

6.       マクリーン判決から40年が経過しました。米国では、移民の権利を守るために、司法当局が大統領と戦っています。全国外国人雇用協会では、2017528日「講演会」を催し、マクリーン裁判の当事者である弘中惇一郎弁護士に「マクリーン判決と現在の課題」についてお話ししていただき、野茂英雄投手の米国メジャーリーグ行きを支援し、日本国内における外国人枠の撤廃に関して積極的に発言しているスポーツジャーナリストの二宮清純氏には、「スポーツ業界における外国人の活用」について語っていただきました。2019年も聞いて為になる「講演会」を企画しています。お楽しみに。
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【Timely Report】Vol.3(2017.5.28)より転載。詳しくは、このURLへ。http://nfea.jp/report

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